先進エネルギー国際研究センター(AESセンター)は,創立11年目を迎える2020年度より、「先進エネルギーソリューション研究センター(センター長:柏木孝夫特命教授、略称、AESセンター、AES=Solution Research Center for Advanced Energy Systems)」と呼称を変更し新たなステージに入りました。
これまで、従来の大学研究の枠を超えて、産官学の参加による開かれた研究拠点「オープンイノベーションプラットフォーム」を構築し、低炭素社会の実現を目指す次世代エネルギーの基盤技術開発や実証実験に取り組んでまいりました。今後は,これらの成果を基盤として、ソリューション研究をより強力に推進してまいります。すなわち、引き続き関係省庁と連携し、各自治体の現場に入り,脱炭素社会と地域創生を同時に実現していく地域プロジェクト創生を加速します。
AESセンターは参画する企業や自治体とともにプラットフォームとなる「研究推進委員会」を形成し、これまでのシンポジウム、研究推進委員会などの活動とともに、分散型エネルギーシステムや強靭化、ヘルスケアなどの市民活動に及ぶ地域プロジェクトを推進していきます。これは、単なる技術革新にとどまることなく、社会構造を変革し新たな価値を生み出すことが大学に期待されているからです。
「低炭素社会」の実現は、21世紀最大の課題のひとつです。東工大は、この課題の解決を目指すソリューション研究の一環として、AESプロジェクトを推進してきました。このプロジェクトは、革新的な省エネ・新エネ技術を大胆に取り込み、地球温暖化の回避と安定したエネルギー利用環境を実現する「持続可能社会のための先進エネルギーシステム」の確立を目指しています。従来の大学研究の枠を超えて産業界や行政、消費者、NPOなど多様な主体が参加できる「プラットフォーム」を構築し、社会ニーズを的確に把握して共同で開発・実証研究に取り組みます。それらの成果を総合して低炭素社会のグランドデザインを描き、次世代エネルギー基盤を確立する道筋を明らかにする計画です。
2005年、東工大が文部科学省の科学技術振興調整費「戦略的研究拠点育成プログラム(通称:スーパーCOE)」に提案し採択された構想に基づいて学内に統合研究院が設置されました。統合研究院は大学にとっては課題実現型の新しい研究類型である「ソリューション研究」を推進し、学内に定着させることを目標に、AESプロジェクトなど複数のソリューション研究プロジェクトを設置しました。AESセンターは、こうした活動の中から2009年9月に発足し、2010年4月に5つの共同研究部門を設置して本格的に活動開始しました。2016年4月には東工大の研究改革に伴い新たに設置された科学技術創成研究院の一員となり、同研究院や本学の学院との連携をさらに深めながら、新たな研究プロジェクト創生に意欲的に取り組んでいます。
「近い将来に実現すべき社会・産業課題を設定し、学内外と広く連携して取り組む組織的研究」――。大学におけるソリューション研究の定義です。これは統合研究院がこれまでに複数のソリューション研究プロジェクトを企画形成・運営し、その経験を踏まえて定式化したものです。その最大の特徴は、課題の側から研究や技術シーズを見ることです。ディシプリン研究に代表される大学の伝統的な研究が、技術シーズの側から課題を見てテーマを深堀していくのとは大きく異なっています。
さらに、ソリューション研究では、課題を的確に捉え研究成果が現実に社会・産業に受け入れられる道筋をつけるところまでを視野に入れています。多様な問題が複雑に絡み合う社会・産業課題に取り組むため、課題設定や研究計画の企画段階から異分野の研究者はもとより、企業や自治体、政府、市民などとも密接な連携をとる必要があります。そうした連携の中心的役割を大学が果たしていこうという狙いです。