エネルギーセキュリティー確保と低炭素社会構築のために水素エネルギーの活用が期待されており、官民挙げての水素インフラ構築への取り組みが進められています。JX日鉱日石エネルギー(以下、JXE)では水素社会の実現に向けた様々な取り組みを行っており、水素エネルギー活用に関する研究の一部をENEOS共同研究部門で実施しております。今回はJXEにおける水素インフラ構築への取組状況およびENEOS共同研究部門における研究活動の一端をご紹介いたします。
現在、燃料電池自動車普及に向け官民挙げて水素インフラ構築への取り組みが進められています。政府は2014年4月に発表した「エネルギー基本計画」の中で、水素を将来の二次エネルギーの中核として位置づけました。JXEでは水素インフラ構築を進めており、現時点で首都圏、中京圏の1都4県に12箇所の水素ステーションをオープンし、2015年度末までに合計40箇所程度のステーションを準備中です。
水素は常温常圧では体積当たりのエネルギー密度が低いため、水素の製造場所から消費地まで、高効率かつ経済的に水素を輸送することが重要となります。現在、高圧水素輸送、液化水素輸送技術が実用化されていますが、JXEでは常温常圧で液体による高効率な輸送ができる有機ハイドライドの技術開発を進めています。
有機ハイドライド法は、トルエンに水素を化学的に固定化したメチルシクロヘキサンを水素ステーションに運び、ステーションで水素を取り出し供給するシステムです。水素を取り出した後のトルエンは、水素製造場所に輸送され、再び水素化反応に利用されます(図1)。水素化反応に用いる水素は様々なエネルギー源からつくり出すことが可能で、将来は再生可能エネルギーを活用した水素を利用することで、低炭素社会を構築できると考えています。
トルエン、メチルシクロヘキサンはガソリンに含まれる成分であり、既存のタンカー、ローリー等のインフラ設備の利用が可能です。表1に示す通り、この方式では1回の水素輸送量が、高圧水素輸送方式に比べ約2.5倍大きく、水素の遠距離輸送に適した方式です。
ENEOS共同部門では東京工業大学内の研究室と協力して、未利用水素や再生可能エネルギーといった様々な水素源を活用するための研究開発を実施しています。テーマの一つである、製油所の未利用水素では、水素含有率の低く軽質炭化水素や硫黄分も含まれる製油所オフガス中の水素を用い有機ハイドライドを製造するための触媒開発を実施しています。ENEOS共同研究部門では水素製造、貯蔵、輸送に至る水素サプライチェーン全体の構築に資する研究開発を実施していきます。
東日本大震災以降、エネルギー安定供給への関心が高まり、再生可能エネルギーや分散型電源を積極的に活用するスマートコミュニティが注目を集めています。国内各地でさまざまな実証実験が行われており、いよいよ実ビジネスに移行しようとしています。本稿ではNTTファシリティーズ共同研究部門が実施しているスマートコミュニティ実現に向けた取組み事例の調査研究の一例を紹介します。
スマートコミュニティを実現するエネルギーマネジメント技術としては、ビルごとに独立したエネルギーマネジメントを行なうBEMSからクラウドを活用して複数のビルを群管理するシステムへと発展し、さらに最近では地域内の再生可能エネルギーとコージェネや蓄電池などの分散型電源の情報まで管理し、地域全体でエネルギーの供給と需要を最適化することができるCEMSが注目されています。
CEMSは右図に示すように、地域内の需給管理を行う地域新電力機能と、需要家の電力設備や空調・照明を監視・制御するエネルギーマネジメント機能を有しており、電力供給と省エネサービスを同時に提供できることが特長となっています。
CEMSを活用した事例として、経済産業省のスマートコミュニティ導入促進事業を活用した「北上市あじさい型スマートコミュニティ」が挙げられます。地域で作られた再生可能エネルギーの電力を買電し、北上市の公共施設などに売電する地域新電力会社「北上新電力」を設立し、4月から事業が開始されています。本事業でCEMSは発電量と需要量の予測、需給管理計画の作成及び系統運用者である一般電気事業者への提出などの運営業務を担っています。
また、北上市のあじさい型スマートコミュニティでは、図に示すように、市庁舎、学校や地区交流センターなど計25箇所の公共施設や地域内の電源設備が、情報通信ネットワークでCEMSに接続されています。具体的なサービスとしては、全施設の需要量や再生可能エネルギーの発電量の電力見える化、さらに、電源設備を遠隔で制御する省エネ・節電サービスを提供しています。また、防災拠点の電源確保を目的に、地区交流センターに「複合型再生可能エネルギーシステム」が設置されています。このシステムは、商用電源、太陽光発電と蓄電池で構成されており、平常時は、蓄電池への充電が自動的に行なわれ、非常時は、蓄電池から負荷へ無瞬断で切り替え給電する機能を有しています。これをCEMSから遠隔制御し、電力需要がピークに達する時間帯には、蓄電池を放電させ、契約電力量を超えないように制御することも可能となっています。その他にも、EV充電スタンドが接続されており、EVの蓄電池を遠隔で充放電することが可能です。
この北上新電力のモデルは、電力の地産地消を実現し、地域内で資金を循環させて地域活性化に貢献できるモデルとしても期待されます。
本稿で紹介した「北上市あじさい型スマートコミュニティ」以外にも各地でCEMSを活用したスマートコミュニティが構築され始めています。今後、CEMSには発電/需要データのデータマネジメント技術やIoT技術が導入されるものと思われます。また、ビジネス面では、低炭素で強靭なコンパクトシティの実現に向け、様々なアイデアが創出されます。引き続き、CEMSを活用したスマートコミュニティ事例を調査していきたいと考えています。
東京ガス共同研究部門の活動の一端をご紹介いたします。東京ガスは、化石燃料の有効利用と、太陽光・太陽熱などの再生可能エネルギーの最大限の活用を目指して、スマートエネルギーネットワーク(以下スマエネ)の実証・実装と取り組んでいます。
当部門では自ら開発中の熱ルータを利用したSHGを提唱しています。その特徴は次の通りです。
● 自己熱源を持っているビルをつないで熱を相互に融通する
● 各建物の最大設備容量の10%の配管で大きな効果を発揮し、経済性と省エネを両立させる。
これらの特徴を活かすべく首都圏3か所でSHG導入可能性を中心とした検討を行いました。
1. 豊島区との共同研究(2011年度)
「池袋副都心地区スマートコミュニティ構想検討会議」
2. 浦安市との共同研究(2013年度)
「低炭素化」と「エネルギーBCP」を推進するため、分散型エネルギーインフラ導入可能性について調査しました。
3.横浜駅周辺地区におけるSHG導入検討(2014年度)
地域冷暖房と隣接する既成市街地において地下道などの公共空間を活用したSHGの導入可能性について検討しました。
田町駅東口北地区では、港区の「田町駅東口北地区街づくりビジョン」に基づき、港区、愛育病院、東京ガスグループ等が官民連携し、エネルギーの面的利用や未利用エネルギー等の活用を行ったスマエネを構築し、 1990年比で45%のCO2削減を目指し、環境性・防災性に優れた複合市街地の形成を推進しています。
先行開発されているⅠ街区では第一スマエネセンターを中心に、港区の施設と「愛育病院」が設置されました。また、今後はⅡ-2街区の開発を進め、Ⅱ-2街区側に設置する第二スマエネセンターとⅠ街区の第一スマエネセンターを連携することにより、スマエネの拡張を予定しています。
本スマエネは、熱源と需要家の統合制御を行う日本で初めての事例であり、プラントだけでなく街区全体での省エネルギーを考慮した最適制御を行うシステム【SENEMS】を導入しています。運用開始後、暖房シーズンから本格的な冷房シーズンを迎え、冷凍機の効率や搬送動力等を含めた統合制御の完成度を高める段階に来ています。この最適解を追及すると共に、Ⅱ-2街区の計画にも反映していく予定です。
また他の地域への展開に活用するため、従来の地域冷暖房から進化したスマエネ第一号として、稼働実績の評価・分析を行うものです。
2014年に経済産業省より提言されたエネルギー基本計画において、水素の重要性について述べられた。「安定供給と地球温暖化対策に貢献する水素等の新たな二次エネルギー構造への変革」とされており、“水素社会”の実現に向けた取組の加速として、積極的な取り組みが推奨されている。このような背景の元、三菱商事共同研究部門では、大規模な水素の海外からの導入に焦点を置き検討を開始した。
水素は、国内において既に数億トンのレベルで製造されており、これらを活用することで、ここ数年の燃料電池やコージェネなどに対応する量は対応が可能と一般的に言われている。しかし、今後、発電分野での活用など、それ以上に利用が進む際には、海外から二次エネルギーとして輸入することが予測されている。この課題としては、大きく分けて二つある。一つは、海外におけるCO2フリーの水素源を特定する事、及び、国内に持ち込んだとき、この水素をどのように、電力系統と連携して活用していくかである。
最初に、海外に於いて、如何にしてクリーンな水素を入手するかについては、再生可能エネルギーにより作られたエネルギーを活用に電気分解により水から水素を取り出すことにより、完全にCO2フリーな水素を作り出すことができる。また、たとえ化石燃料から水素を製造した場合でも、その製造の為に排出されたCO2を大気に放出しなければ、CO2フリーの水素と言える。したがって、排出されたCO2を回収し、地底深くに埋めるCCS(Carbon Capture Storage)というプロセスにより、クリーンな水素を製造できる。
三菱商事共同開発部門としては、これらの可能性がある国を選定して、水素生産のコスト試算、概略経済性の評価、及び水素の大量生産および輸送の条件整理という課題を掲げ検討してきた。
まず、水素製造する地域の地理的条件が限定され、日本からみて遠方であると、ロジステックのコストが無駄になり、東南アジア等に限定される。また、水素が再生可能で生産されても、地域で使われて余剰にならない場合入手困難となる。以上から、インドネシア、マレーシア、オーストリア、ニュージーランドを重点地域として検討を進めている。
電力のネットワークでは、消費者の需要に応じて発電設備が稼働し、需給バランスを保つ必要がある。ただし、再生可能エネルギーの導入が進むと、発電量の制御が難しくなる。こうした中で、水素を中心とした電力の安定化の方法が考えられている。すなわち、図の下にある電力系統において余剰となった電力により、水の電気分解から水素を製造し、これを貯蔵する。電力や熱の需要が高まった際は、燃料電池により貯蔵水素から電力や熱を生産し、更に、輸送用の燃料として燃料電池車にも使用する。このように、電力系統の中に、水素を組み込むことにより、より柔軟性を持たせたシステムを“スマート水素ネットワーク”と名付けた。
そして、この様なスマート水素ネットワークの運用仕方や要素機器の規模感などの基本的な概念について、まずは小規模な長崎県対馬市などの離島を対象として実証を検討している。
離島では、自然資源が豊富なので再生可能エネルギーを設置する機会も多いが、需要が少なく系統に負担であり、一部の離島では出力制限も始まった。すなわち、スマート水素ネットワークの検討が離島では既に必要となってきている。
本共同研究部門では、この実証を通して、グローバル水素の検討と共に、水素に関連した大規模な事業の創造に務めている。
近年の環境保全に対する意識の高まりに伴って、省エネおよび低炭素化を考慮したインフラに対するニーズが高まっています。東芝では、効率的なエネルギー活用の実現を目指して都市交通ソリューションの構築に取り組んでおり、東芝共同研究部門において、LRT、BRTなど環境負荷の低い公共交通機関の普及に向けた研究を行っています。ここでは、その内容の一部をご紹介いたします。
世界的な取り組みとして、自動車分野では省エネおよび低炭素化に向けて、電気自動車やハイブリッド車の普及促進、エンジンの高効率化などが行われています。その結果、自動車自体からのCO2排出量は年々減少しています。
しかし、都市部への人口集中により交通渋滞が発生しており、渋滞時の排気ガスによる環境汚染の削減が課題となっています。日本では、渋滞発生を抑制する施策として、公共交通機関の整備による交通量の削減、道路構造の改善、パーク&ライドなどの交通需要マネジメントの導入などが行われています。また、公共交通機関の普及に対するニーズは、経済発展に伴う自動車、オートバイの急激な増加により、深刻な交通渋滞が発生している新興国でも高くなっています。
都市交通に関するニーズに応えるため、東芝では、図1に示すように、環境負荷が低く、速達性と定時性を両立したLRT、BRTを主軸とした都市交通ソリューションを検討しています。
その取り組みとして、東京都港区でのコミュニティバスを用いたEVバス実証運行、川崎市でのEVバスの商用運行、全日本空輸株式会社の社用バスとしてのワイヤレス充電システムの実証事業などを行っており、EVバスを用いたBRTの有効性などを検討しています。また、鹿児島市では路面電車向けの架線レス走行試験も実施しており、こうした都市交通ソリューションを海外展開も含めて検討しています。
新興国では、自動車・オートバイの利用形態やLRT、BRTなどの公共交通機関に対するイメージが先進国と異なるため、交通/都市計画立案の段階で各地域の特性を十分に配慮する必要があります。そのため、人間環境システム専攻屋井研究室・室町研究室、土木工学専攻福田研究室と共同で、さらに、カンボジア・国土整備・都市化・建設省、フィリピン・フィリピン大学、タイ・チュラロンコン大学、インドネシア・ブラビジャヤ大学、ベトナム・ホーチミン工科大学の研究者等とも連携して、東南アジアでの研究を進めています(図2)。
カンボジアとインドネシアでは、公共交通機関を新規導入した場合の交通需要の傾向について分析を行うために、交通機関利用者に対して選好意識調査を実施しました。その結果、公共交通機関に対して「安全性」「低運賃」「定時性」を求めている傾向を確認しています。また、新興国ではバイクタクシーやトゥクトゥクをはじめとするLAMAT ( Locally Adapted, Modified and Advanced Transportation;本共同研究部門が提案するパラトランジットの新呼称 ) が存在します。目的地までdoor to doorで移動できる利便性の高さから市民の足として定着しているため、公共交通機関の普及にはLAMATとの共存が必要であると考えています。そこで、LAMAT事業者に対する調査も行い、需要面と供給面から分析を行っています。
本共同研究部門では、さらに新興国における調査と分析を深め、環境負荷の低い、持続可能な交通ソリューションの実現に向けて研究を進めて行きます。
私たちを取り巻く、社会・市場は大きく構造変化しています。時代の趨勢として、
● 「集中・所有・消費」型から「分散・共有・循環」型へ・ヒト・モノ・カネが自由に移動する自由貿易圏の拡大
● 新興国が世界の経済成長を牽引
● 北米シェールガス等、エネルギー資源を軸にグローバル市場構造が変化
これらの変化に伴い、持続可能な社会実現を達成していく必要があります。日立では、「共生自立分散」と「お客様との協創」で新たな価値を生み出し、豊かな世界を目指します。
日立では、「共生自立分散」を重要なキーワードとしております。共生自立分散は、「相互に依存しあう重要な社会インフラにおいて、個別最適では限界があり、それぞれのインフラが連携して、協調した、全体最適の使い方が必要になる」という視点に立ったものです。この中では、ITを活用して、相互に連携しあう事が重要となります。
お客様の課題を解決するために、お客様と会話をして、お客様視点で一緒になって取組む必要があります。これが日立の目指している「協創」です。ITを活用し、データを収集し、分析・予測を行い、そこからフィードバックし、お客様の事業の成長と社会解決に取組む。そして、幅広い経験を生かして対話の場を作り、お客様の事業を改革していくBtoB (Business to Business)が、社会イノベーションと考えています。これは、先の共生自立分散という考え方を企業にあてはめたものです。日立グループでは、エネルギー、都市、交通、ヘルスケア、水などの社会イノベーション事業に力を注いでいます。それらが自立的に動き、全体が連携しながら、課題を解決でき、社会イノベーション事業の進化につながるというものです。
日立の二つの重要なキーワードである、「共生自立分散」、「協創」によるスマートコミュニティーの具体例として、柏の葉プロジェクトを紹介します。上図に、柏の葉、スマートシティの特徴を示します。柏の葉は、災害の強い街づくり-より安全・安心にくらせる街づくり-をコンセプトに、三井不動産殿をプロジェクトリーダー、日建設計殿をトータルコンサルティング担当とした協創の中で、日立はBCP及びLCP (Business Continuity Plan/Life Continuity Plan)、特にITとトータル制御システム構築に寄与致しました。その中で、太陽光発電、蓄電池などを導入、地域全体でエコなライフスタイルを実現致しました。「IT(情報と制御)」×「省エネ」技術を用いて、需要予測に基づく電力融通機能を拠点間自己託送に活用しています。さらに、住民参加型の持続可能な街区運営に寄与した事例として、テナントユーザー、住民向けタブレット端末を配備し、各電力消費量、CO2排出量をビジュアル的に確認できる等のサービスも実現しています。
このように、日立はこれからもエネルギー分野を中心に、スマートコミュニティとその関連技術で高度な社会を実現する社会イノベーション事業に取組んで参ります。2015年10月より、東京工業大学AESセンターに共同研究部門を設置しました。この中で、東京工業大学の優れた人材、自治体、企業などAESセンターを介したチャンネルを有効に活用して「共生自立分散」と「お客様との協創」、この二つを、特に社会インフラの観点から進化させます。特に佐藤勲副学長の研究室からご指導を頂き、日本のインフラプラットフォーム創造に貢献してまいる所存でありますので、皆様のご指導、ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。
省エネルギーで低炭素かつ災害に強いまちづくり=安心安全創造都市(豊島区)の実現に貢献するため、池袋副都心地区が有する地域資源・地域力を最大限に活かした自立分散型地域エネルギーシステムの構築を提案する。併せて、活力と魅力に満ちたまちづくりに向けて、生活者(区民・企業等)の参画を促す仕組みを提案する。
高速道路等の既存社会インフラを活用して、清掃工場・下水処理施設等の未利用エネルギーや需要地近接分散型発電所からのエネルギーを、既存の地域冷暖房や大規模事業所に面的にエネルギー融通利用する。大規模自立型発電所を同地区に建設する事により、エネルギー融通インフラと合わせてロバスト(頑強)な電力供給システムを構築する。
主に清掃工場廃熱利用プロジェクト(①清掃工場廃熱回収・払出システムおよび②熱融通ネットワーク)と大規模熱電併給システムプロジェクト(③大規模コジェネレーションシステム〈CGS〉および④電力融通ネットワーク)について環境性(省エネ・CO2削減効果)やエネルギー自立度を研究・検証する。
【池袋副都心地区スマートコミュニティのイメージ図】
地域冷暖房事業は「供給条件の保証」を前提とする事から、条件に合わない熱は捨てている。再生可能エネルギーや分散型エネルギーの廃熱等の品質の変動を踏まえた簡便な熱供給システムの構築は可能であることから、原則各需要場所に分散型エネルギーシステムを設置し、地域内に賦存する再生可能エネルギー等とネットワーク化し、熱の品質(量や温度)の変動をある程度許容する事(ベストエフォート型)を前提とした熱融通を実施する事で、熱融通配管の口径の最小化や搬送動力の低減、容易な熱融通エリアの拡張、廃熱や再生可能エネルギー等の利用拡大が期待できる。これを「ベストエフォート型熱融通ネットワーク(βネットワーク*)」と呼ぶ。
*Best Effort Type Heat Accommodation Network = BETHA Network
【ベストエフォート型熱融通ネットワークの導入イメージ(温水の場合)】
学校A及びビルBで発生した余剰熱を熱ルータ(熱融通廃相互接続装置)を介して熱融通配管(高温水配管)へ送り、熱需要のあるマンションCは高温水配管から熱を受入し各戸の好みに合わせ不足分を給湯機で補い熱利用する。逆に、天候の変化や分散型エネルギー稼働状況によっては、需要量との関係で学校A及びビルBが熱を受入する事もある。エネルギーナビゲーター(EN)は各ビルの需要予測を行い、デマンドレスポンス等のインセンティブ付与情報提供を行い、各利用者のエネルギー選択の結果、省エネ・低炭素化へ導く。
東日本大震災の直接的影響ならびに計画停電や原発問題等の二次的被害の社会的・経済的影響を考えると、多種多様な分散型電力システムと災害に強いライフライン(飲料水・医療・情報通信等)が地域単位で連系・ネットワークシステムを形成して地域を支える姿を描いていく必要がある。これを踏まえ、広域避難場所として指定されている東京工業大学大岡山キャンパスが自立防災拠点型スマートコミュニティとして地域を支える仕組みを提供する。
計2MWの多種多様なグリーンエネルギー設備(太陽電池・燃料電池・二次電池)ならびに将来設置を検討している中水施設、ガスエンジン、風力発電設備を活用し、地域の総合病院を中心に大規模店舗や商店街等と連携することで、被災時・停電時に避難者や要治療者に生活用水、食料、医療環境等を提供するとともに、平常時にも電力ピークカット、CO2排出削減に貢献できる自立防災キャンパスモデルを構築し、実用検討を行う。
また、当該地域の電力の負荷平準化(ピークカット)や効率化、災害時情報提供システム等に関して、大田区、目黒区、品川区と連携して検討を行う。
神奈川県鎌倉市との共同研究協定に基づき「鎌倉市スマートシティ形成に向けた研究」を推進している。鎌倉市の地域特性を活かした省エネ・創エネのあるべき姿とそれらの具体的・定量的導入方法を検討、その結果を技術的なメニューとして提示することにより、今後の鎌倉市のエネルギー政策に反映させる。
連絡調整会議にてスマートシティ形成に向けて実施すべき研究内容および項目を検討した結果、次の5つのプロジェクト(PJ)を推進、検討する。
検討結果を報告書にまとめ、鎌倉市エネルギー計画策定等に反映される予定である。